紅茶の国・イギリスの茶文化と歴史。
私たち日本人にとって「お茶」と言えば日本茶ですが、世界で「お茶」と言えば紅茶のこと。世界の茶の生産量の7割が紅茶だということ、ご存知でしたか?そして、紅茶の国と言えばイギリス。リプトン、ブルックボンド、トワイニング、ウェッジウッド、フォートナム&メイソン、これらは全てイギリスの会社です。今回は、紅茶の国・イギリスの茶文化についてお届けします。
学生も、会社員も、軍人も、登山家も!全国民が紅茶を愛する国。
ある調査によれば、イギリス人ひとり当たりの年間紅茶消費量は約2.6キロ。1日5~6杯の紅茶を飲んでいることになり、この数字は日本人の25倍にもなるそうです。学校や会社には10時・15時にティータイムが設けられているところもあり、まさに国民飲料と言えるでしょう。そんなイギリスだけに紅茶にまつわる逸話がたくさんあります。例えば、朝鮮戦争時のこと。国連軍として参加したイギリス軍ですが、アフターヌーンティーの時間には砲撃が止まっていたのだとか。また、国民性を表す笑い話では「イギリスの傭兵はティーカップを持って死んだ」なんて言われることもあります。エベレストの頂上でティータイムを楽しんだのもイギリスの登山隊でした。そんな紅茶を愛する国・イギリスの文化を少しご紹介していきましょう。
イギリス茶文化の代名詞・アフターヌーンティー!
イギリスの茶文化と言えは、皆さんご存知アフターヌーンティー。ケーキやスコーン、サンドウィッチと共に紅茶を楽しむ文化ですが、貴族の社交として始まっただけに作法やマナーがたくさんあります。厳密な場ではティーカップの持ち方や料理を食べる順番なども決まっていて、「さすが伝統と格式を重んじる国」と言ったところ。室内装飾や食器を愛でるところや礼儀作法を大切にするところは、日本の茶道と通じるところがあるのかもしれません。近年では、伝統的なアフターヌーンティーのほか、現代風にアレンジした斬新なアフターヌーンティーを楽しめるお店も増えているのだとか。日本では、カジュアルなカフェでもメニュー化されていることがあります。
1日中存在するティータイム!?
アフターヌーンティーの他にも、イギリスではティータイムがたくさん存在します。例えば、朝起きてすぐに飲む「アーリーモーニングティー」。ベッドの中やベッドサイドで紅茶を楽しむ優雅な風習です。また、たくさんの朝食と共に紅茶を楽しむ「ブレックファストティー」、女性が家事を終えてひと息つきながら紅茶を飲んだことから始まった「イレブンシス」、肉料理や魚料理も出る「ハイティー」、夕食後にくつろぎながら一日を締めくくる「アフターディナーティー」などなど、とても細かく分類されているのです。ひとりの人がこれらを1日に全部こなしているわけではありませんが、イギリスではとても身近なところに紅茶があるのがお分かりでしょう。余談ですが、それぞれのティータイムには約束事があります。
普段飲みは…実はティーバッグ!?
意外かもしれませんが、実はイギリスで消費される紅茶の96%がティーバッグなのだそうです。その上、紅茶にビスケット(※イギリスでクッキーという言葉は通用しません)を浸して食べる「ダンク」という食べ方が一般的。作法やマナーを重んじるアフターヌーンティーのイメージとは少し異なるかもしれませんが、普段飲みは非常にカジュアルなスタイルだと言えるでしょう。日本茶において、茶道のお茶と普段飲みのお茶が違うことに近いのかもしれません。
2.紅茶とイギリスの歴史。
紅茶大国として知られるイギリスですが、はるか昔からお茶を楽しんでいたわけではありません。お茶の発祥は紀元前の中国だと言われていますが、イギリスが初めてお茶を輸入したのは17世紀。1630年頃にオランダの商船が日本と中国からお茶を買い付けて周辺諸国に販売したことが、お茶とイギリスの出会いでした。その後、チャールズ2世の元に嫁いだ王妃キャサリンが東洋趣味で宮廷に喫茶の風習をもたらし、その後上流階級のステータスとして広まり、労働者階級にまで普及することになります。ここでは、イギリスとお茶に関わる歴史エピソードをいくつかご紹介しましょう。
水の性質が、紅茶の国を生んだ!?
イギリスの生水は、カルシウムやマグネシウムを多分に含んだ硬水。基本的に飲むことができません。そのため、昔からアルコール類が飲まれていました。中世以前はアルコール中毒者が大変多かったと言われています。17世紀になってお茶・コーヒー・チョコレートが輸入されるようになり、当初はコーヒーが人気を集めました。しかし、コーヒー・チョコレートの栽培・貿易の主導権をフランスやオランダに握られたことで価格が高くなり、次第に紅茶へとシフトしていくことになります。入手しやすく安価、しかも抗菌作用があるということから紅茶が普及したのです(ロンドンでは1665年にペストが大流行し、人口の4分の1から3分の1が死亡。抗菌作用に大きな価値があったと考えられます)。砂糖の価格が大幅に下がり、労働者階級の栄養補給に優れていたことも一因だと言われています。
紅茶のために起こった戦争!?
歴史の教科書にも載っているアヘン戦争は、アヘン(麻薬)の禁輸を発端とした清とイギリスの戦争。実は、この戦争には紅茶の貿易が大きく関わっているのです。紅茶の消費量が増えた当時のイギリスは清から大量の紅茶を輸入していました。一方で輸出できるものは少なく、貿易赤字が増える一方。そこで着目したのがアヘンです。清ではアヘンの輸入を禁止していましたが、イギリス人による密輸によって大量のアヘンが国内に持ち込まれることになりました。そしてイギリスのアヘン輸出量は紅茶輸入量を超え、清の経済危機にまで発展します。このような背景の中、清がイギリス貿易商の積荷を廃棄したことからアヘン戦争が始まったのです。圧倒的な戦力で戦争に勝利したイギリスは香港を占領し、その後インドで紅茶の大量生産技術を確立して紅茶を安定供給できるようになりました。
近年はコーヒー需要も増えている!?
紅茶が国民飲料として定着して以来、イギリス人はコーヒーを美味しく飲む努力を必要としなくなりました。コーヒーの抽出法や器具を次々と開発していくヨーロッパ各国から遅れをとり、19世紀後半には「イギリスのコーヒーは粗悪品」とまで言われるようになったのです。このような背景からコーヒーとの縁が希薄になっていったイギリスですが、近年コーヒー文化が活性化していると言われています。EUの拡大と共にイタリア人が大量に流入し、イタリアンコーヒーが根付いたためです。ロンドンではイタリア系コーヒーチェーンの店舗が続々と出店し、またアメリカ系大手のスターバックスコーヒーも店舗数を増やしているとのこと。紅茶だけでなく、コーヒー大国になる日も遠くないかもしれません!?
(まとめ)
イギリスの茶文化のお話しはいかがでしたか?実は茶文化の発祥や発展は、各国の有名な歴史とつながっていることも珍しくありません。イギリスにおいては、他にも英蘭戦争やアメリカ独立などとも関係しています。興味のある方は、ぜひ調べてみてください。歴史を調べながら1杯のお茶を楽しむのもおつなものではないでしょうか。